訓民正音 — 音声言語を文字として構造化した世宗の発明(1446年) 出典: ウィキペディア · Public Domain

人類の文明の規模は、情報技術が決定してきた。

音声言語:部族の誕生

十万年前、音声言語が現れた。霊長類は互いの毛づくろいによって絆を維持していたが、この方法では百五十人が限界だった。言語がその限界を打ち破った。一人が同時に複数の相手に語りかけることができ、直接会ったことのない人間についての情報を伝えることができた。「あの山の向こうの部族がこちらに向かっている」——その一言が、数百人の協力を可能にした。音声言語は部族を生んだ。

一万年前、農業が始まった。食糧の余剰が生まれると人々は一か所に集まり住むようになり、村となり、都市となった。しかし都市は部族とは異なる問題を生んだ。穀物はどれだけあるのか。誰が税を納めたのか。この土地は誰のものか。音声言語だけではこの情報を管理できなかった。言葉は消えてしまうからだ。

五千年前、メソポタミアの誰かが湿った粘土板に楔形の記号を刻んだ。穀物袋の数を記録するためだった。これが文字である。文字は、言葉にはできなかった一つのことを成し遂げた。情報を時間の上に固定したのだ。記憶ではなく記録に頼れるようになったことで、官僚制が可能になり、法律が可能になり、帝国が可能になった。文字は国家を生んだ。

情報技術が作ったパターン

ここにパターンが見える。

音声言語は情報のリアルタイム伝達を可能にした。だから部族という新たな規模の社会が現れた。文字は情報の時間的保存を可能にした。だから国家という新たな規模の社会が現れた。情報技術の革命が、社会規模の革命を生んだのだ。

いま、我々は第三の転換点に立っている。

自然言語で思考するAIの限界

AIは人類史上初めて、人間ではない存在が情報を処理する時代を開いた。しかしこの存在は、人間の言語で思考している。自然言語で入力を受け、自然言語で推論し、自然言語で出力する。毎回ゼロから考え、その結果を捨てる。記録しない。蓄積しない。

これは、文字の発明以前の都市に似ている。

都市に数万人が暮らしているが、すべての情報が人の記憶にしか存在しない状況。穀物の在庫を毎回直接数えに行かなければならず、納税の有無を証人の記憶に頼らなければならず、法律が長老の言葉の中にしか存在しない状況。機能はする。しかし規模を拡大できない。効率が限界に達する。

メソポタミアの人々はこの問題を文字で解決した。言葉を粘土の上に固定した。記憶を記録に変えた。

AIにも同じものが必要だ。

AIの推論を構造化して記録する体系。一度の推論が消えずに蓄積される体系。蓄積された推論が次の推論の土台となる体系。自然言語の曖昧さから脱し、出典と文脈と確信度が明示された構造化言語。

第三の言語の設計

音声言語が人と人との疎通のために自然発生したとすれば、文字は情報の管理のために意図的に発明された。そしていま、AIの推論を管理するための第三の言語が、意図的に設計されなければならない。

音声言語が部族を生み、文字が国家を生んだとすれば、この第三の言語は何を生むのか。

まだ名前のない、その規模の文明を。